読んだら忘れない読書術 / 樺沢紫苑 を読んで「記憶するための読書術」について考えた
読んだ本
- 作者:樺沢紫苑
- 発売日: 2015/04/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
目的
- 読んだ本の内容を覚えたい
考えたこと
「結晶化された知識」としての本
単なる羅列された文字情報ではなく、実践可能、応用可能で行動につながり、10年たっても風化することのない「結晶化された知識」を得られるのが「本」なのです。
(p.24より引用)
何千,何万もの先人たちが自分たちの経験や知識を体系付けてまとめたものが本.著者の樺沢さんは人生の悩み事は本によって解決されると主張している.
確かに,人生のヒントは本に書かれていることが多い.私の場合は中学校時代に,人間関係に悩み自分を見つめ返すために読んだ「孔子」や,高校時代に効率良く本を読むためにはどうすれば良いのかと悩んだ時に手を伸ばした「日本速読協会の本(題名忘れた)」,大学院時代に何をするのが人生の目的なのかについて考えた時に読んだ「幸福について / ショーペンハウアー」など,思い返せば人生の貴重なヒントをくれたのは本であった.
良い本は時間や言語の壁を超えて受け継がれていき,多くの人が本によって人生のヒントを得てきた.これは真理だと思う.
これからも困った時は本も頼ろうと思う.
記憶に残る読書
本書では,読んだことを記憶に残すための手法がこれでもかというくらい書かれている.著者は医者であるため,理にかなったことが書かれておりとても参考になった.
本に書かれている手法を1つ1つ書くことは問題があるのでしないが,要するに「脳内物質」を有効に活用せよとのことが書かれていた.
ノルアドレナリン、ドーパミン、エンドルフィンなどの記憶力を高める脳内物質を意識的に分泌させることで、本の内容を鮮烈に、そして長期記憶してしまおう!
(p.84より引用)
何事も鵜呑みにせず,自分なりに考え,自分にあったものにすることが大切だと思う.そこで,著者の考える方法も踏まえ,私なりに記憶に残すための読書術を考えてみた.
そういえば小学生の頃に能力開発の習い事を習っていたことがある. その際に習ったことも思い出しつつ統合できればなと思う.
作るために脳内について調べようと思ったところ,本書の著者の本が見つかった. マーケティングが上手いなと思った.
記憶に残る情報
本書では要するに脳内物質をうまく活用して記憶に残せと言っていた. 記憶術系の本でも同じようなことがよく書かれており,脳の構造や特性を理解することは大切である.
本書で触れられていることと私の経験を照らし合わせて整理すると,記憶に残りやすい情報の条件は以下のようになる.
- インパクトがある
- 大きな感情を伴う
- 自分の持つ他の知識と関連付けられる
- 何度も繰り返し使われる
これらを一つ一つ見ていこう.
インパクトがある
能力開発の塾に行っていた時には,いかにして情報をインパクトのあるものにするかを練習した. 記憶として残るのであれば,ふざけた語呂合わせ作りや落書きもどんどんするべきであると習った.
私自身これが一番身にしみた経験として,センター試験の地理で起きた出来事がある. 私の場合,地理は受験に関係がなかったため高校の授業以外で地理を勉強したことがなかった. また,主要教科に時間を割きたかったため,授業以外での勉強時間も全くしなかった. 高校二年生の時に全5回あった中間,期末テストの日の朝に40分ずつくらい振り返りをしただけだった. それにもかかわらず,記念受験したセンター地理で82点となかなかの高得点だった. もちろん,センター前に復習など一切していない.
なぜ授業でやっただけの地理が2年間(浪人した)も復習せずに記憶に残ったのか. これは授業中にやっていた落書きのおかげであると考える.
当時の私にとって,地理の授業はとても退屈だった. そこで暇つぶしに,出てきた民族や動物など,絵に変換できるものはかたっぱしから落書きとしてプリントに書き込んでいった. 地名や分類については,ふざけた語呂合わせを作って落書きとともにプリントに書いた.そうすると退屈な授業も楽しくなった. この落書きや語呂合わせのインパクトが強かったおかげで,10年以上たった今でも記憶に残っている.
このように,情報を自分で勝手にインパクトのあるものに直して覚えることは有効である. (フランシスコ・ザビエルのヒゲの部分に目を書き込んでひっくり返すとペンギンになる.小学生の頃に教科書に落書きしたが,これは今でも鮮明に記憶に残っている.おそらく誰でもこのような経験歯あると思う.)
大きな感情を伴う
生物の脳は生存すること,繁殖することに最適化されている. 「サピエンス全史」では,誰々が誰と寝たといったような噂話は社会的な生物としての人間にとって生存に重要であり,それを伝達するために言語が発達したと書かれていた.やはり我々は生存に最適化されるよう進化してきた(最適化されていない奴が淘汰されてきた)のだと思う. 生存に関係あることは強い感情とともに印象に残る.記憶力の悪い私でも,交通事故を間一髪回避した時などはヒヤヒヤとか危なっといった感情とともに鮮明に記憶に残る.
また,生存や繁殖とは関係するかわからないが,私の場合は校内マラソン大会で優勝した時,買った株が3連騰でストップ高なった時など,極端に嬉しかった時も記憶に残っている.
他の知識と関連付けられる
大学で専攻していた情報工学や人工知能に関する知識はなぜかすぐに覚えられることができて忘れない. これは,すでに持っている他の知識と密接に関係しているためか,脳に重要な情報だと判定されるらしい.
何度も繰り返し使われる
これは有名だが,エビングハウスの忘却曲線というものがある. 情報は時間を経るにつれ徐々に忘却されるが,忘却の途中で思い出すことにより,忘却のスピートが徐々に緩やかになっていくというものである.
記憶は何度も短期間に何度も思い出すことで,海馬(パソコンでいうとこのメモリ)から側頭葉(ハードディスク)に移されるらしい. よく使う情報は生存にとって大切なのだろう.
自分なりの記憶に残る読書術
これらを整理して私に合いそうな読書術を考えた.
目的の明確化
本のはじめのページに「現状」と「この本を読んだ後」の差分を意識して,本を読む目的を書き込む. なぜこの本を読むのかを意識することにより,取捨選択の助けとする. また,現状の知識を再確認することで,そこにどう紐付けていけそうかを潜在意識として保持することを期待.
読みながらメモ
読みながら記号や線を書き入れる. 重要箇所などにチェックすることにより,そこにインパクトを付け記憶に残すのが目的. また,思ったことなどを書き入れることにより,感情を保存する.
マインドマップ
キーワードはマインドマップ(トニー・ブザン提唱の方式)に書き込んでいく. 私は,マインドマップには以下のメリットがあると考える.
- イラストでインパクトアップ
- 体系付けられる
- 抽象ー具体
- ツリー構造
- 要素の関連
- 勝手にクラスタリングされる - 文章より楽
- 全体構造を俯瞰できる
- 個性がでて楽しい
- 画像として保存しやすい
- 文章や会話に落としやすい
他にもメリットはたくさんあるが,容易に復習できて体系付けながら整理できるのが良い.
感想
自分の読書方法を見直す良い機会になった.この本を中心して色々な本を読み込むことによって自分なりの方法が確立できた.この本は,読書の本というよりは情報をいかにして活用するかに主眼があり,スケジュール管理などにも応用していたた.私も種々の情報に関して活用法を考えていきたい.
- 作者:樺沢紫苑
- 発売日: 2015/04/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 作者:孔子
- 発売日: 2002/12/10
- メディア: 新書
- 作者:ショーペンハウアー
- 発売日: 1958/03/12
- メディア: 文庫
- 作者:ユヴァル・ノア・ハラリ
- 発売日: 2016/09/16
- メディア: Kindle版
- 作者:トニー・ブザン
- 発売日: 2012/04/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
三色ボールペン情報活用術 / 斎藤 孝 を読んで「読書中の書き込みルール」について考えた
読んだ本
目的
- 読書中の書き込みについて考える
考えたこと
本に書き込むということ
私は通勤電車で本を読む.「アウトプット大全」や「独学の技法」を読んで以降,本の内容をiPhoneでエバーノートにまとめてきた.まとめることで情報が整理され,記憶にも残ることを実感してきた.
最近この方法だと困ることがでてきた.
そこで,前々から気になっていた書き込むことを検討した.せっかくの本に書き込むのだから意味のあるものにしたいと色んな人の方法を調べた.
読書について書かれた本の筆者は,本への書き込みを強く推奨していた.売ることなんか考えずに糧にしろというのが大半だった.私も書き込むことにした.
書き込む道具
著者の斎藤先生は,3色ボールペンを使って以下のようなルールで書き込むことを推奨している.
緑 - おもしろい(主観)
青 - まあ大事(客観)
赤 - すごく大事(客観)
(p.38の図中の文字より引用)
読書中にこれらの色を使ってマークをしていく.そうすることにより,情報を活用できる形に変えいくのがこの本の目的である.
3色は一瞬で判別でき,それぞれの色が意味を持つ点ではとても見やすく良いと思った.
他の読書本も何冊か読んでみたが,マーカー(樺沢紫苑さん)や速記用シャーペン(池上彰さん,佐藤優さん)を使う人もいた.YouTubeでも見てみたが,シャーペンや赤いボールペンの人もいた.
色々と検討した結果,以下の理由により青色のボールペンを使うことにした.
- どこでも売っている
- 持ち運びやすい (しおり代わりに挟める)
- 書き込み後に本の内容を読みやすい
3色ボールペンは確かに見やすいのだが,太くて使いづらいのと,すぐにインクがでなくなるので私はあまり好きじゃない. 一方で,シャーペンやボールペンであれば,持ちやすく選択肢も大量にありどこでも買える.
色については,赤色を検討した.実際に書いてみたところ,目への刺激が強すぎて元の文章が読みにくく感じた. そこで,青色を使ってみたところ,マークした箇所が一瞬でわかりつつも,元の文章の邪魔をしなかったため,青色のボールペンにした. 記憶にも良いって昔聞いたことがあるが本当なんだろうか.
記号について
多くの本では,何のために書き込むのか,何を書き込むのかについて書かれていた.この本でも何のために書き込むのか,何色で書き込むのかは書かれていた.キーワード,重要な部分,気になった箇所,浮かんだアイデア,メモなどを書き込むのが共通していた.
線を引くだけでなく,もっと工夫して本をカスタマイズすればより良くなると思って調べてみた. 本ではなかなかそのような内容のものに出会えなかったが,YouTubeに良い動画があった.
動画を参考に自分でもルールを作ってみた.
私の書き込みルール
囲む
- キーワード: ○で囲む
ライン
- 最重要: 二重線
- 重要: 単線
- おもしろい: 波線
- わからない: 破線
かっこ
- when: < 2020年 >
- where: ( 日本 )
- who: 「 安倍首相 」
- what: [ オリンピック延期 ]
- why: { 新型コロナウイルスの拡大により }
記号
- ☆ : 重要部分 (各章1箇所程度)
- ★ : 最重要部分 (1冊に3箇所程度)
- =: 矢印に付与.同等.
- ×: かっこや囲いに付与.
- ○: かっこや囲いに付与.
対応
- 矢印: キーワード,ラインなどを結ぶ
- 曲線: キーワード,ラインなどを結ぶ
書き込み
- 気がついたこと
- 思いついたこと
- 読んだ時の心情
- メモ
- 最初のページに「読む目的」
- 最後のページに「まとめ」
これらで内容を整理していきながら読む.そうすると,自分のノートができる.
読み終わった頃には,大切な部分が浮き彫りになっている.読み返した時にはその時思ったことなどを振り返れる.アイデアなども垂れ流しにならない.
感想
自分の読書方法を見直す良い機会になった.この本を中心して色々な本を読み込むことによって自分なりの方法が確立できた.この本は,読書の本というよりは情報をいかにして活用するかに主眼があり,スケジュール管理などにも応用していたた.私も種々の情報に関して活用法を考えていきたい.
独学の技法 / 山口周
何について書かれた本か
実践的な学問について教育を受けたわけでもないにもかかわらず、様々な業種で活躍する著者が試行錯誤しながら構築した独学の方法について語る本。知的戦闘力の向上が目的。
この本への期待
会社の人のおすすめで読んだ同じ著者の本がそれなりに刺激的だったので。独学は常に付きまとうのでなにか新しい発見を求めて。
感想
本などで得た情報を抽象化して使えるようにストックしておくというのは新たな気づきだった。この頃ようやくアウトプットやメモはの重要性に気がつき、その時思ったことなどを記録するようにはなったが不十分であったと気がついた。引用集やまとめ的な引き出しに加えて、抽象化して汎用的に使えるように落とし込む練習をしようと思う。
本書では効率的な学習のための道具として、以下の4つを挙げていた.
- 戦略
- インプット
- 抽象化
- ストック
戦略はインプットする際に何をテーマにし、どこを重視するかを決めておくことで感度が高まるというものである。何となく読書をしている時よりも、何かに困ってその解決策を探る時の方が効率的に読めていた。また、何かを探す時にも、対象としているものが目に入ればそこが浮かび上がるような感じがする。何に意識を集中させるかで認識能力や集中力が高まるのだろうと思う。大学生の時に株に興味を持ち、儲けるために経済学、経営学、世界地図、語学の勉強を必死にした。その時からニュースで流れてくる経済情報、企業の決算、為替の変動などには敏感に反応するようになった。
インプットは取捨選択が必要で、量より質が大切だと書いてあった。ショーペンハウアーの「読書について」にも同じことが書いてあった。今日は情報社会なので役に立たない情報や誤った情報だらけである。これらを全て読んでる暇もなければ、むしろ毒になりうるので読まない工夫が必要だと思う。ショーペンハウアーは時間をフィルターとして、現代まで残ってきた古典は読む価値があると主張していた。私は人によるフィルタリングが有効であると考えている。人といっても誰でも良い訳ではなく、例えば読書家としても知られるビル・ゲイツ氏や堀江貴文氏など、社会で成功を収めたり、スポーツ選手や大学教授など何かに精通している人の勧めるものについては読む価値があると思っている。筆者も人によるフィルターは有効であると述べていた。また、本だけではなく日常生活の様々な場面を学びの場とすることが大切であると書かれていた。
抽象化は難しい。得られた事実や知見を抽象化して汎用的に用いることのできる知識としなくてはならない。これができないと美術から数学的知見を得るなどの、領域をまたぐ考え方ができるようにはならない。普段から意識して、どうすれば他に使えるようになって、他に使ったらどうなるかを考えるクセをつけようと思う。エンジニアとしてプログラムにおいて毎日のように概念を抽象化することはしているが、知識自体の抽象化はより難しく感じる。繰り返し使われそうな共通部分をくくり出してパターン化する程度の認識しかない。以前読んだ「達人のサイエンス」では、合気道の経験から物事を極める道自体を抽象化して、極める過程でどのような課題があり、どう対処すれば良いのかまで書かれていた。これは高度に抽象化された知識の素晴らしい一例だと思う。また、黒川伊保子氏の「妻のトリセツ」という本では、女性は井戸端会議を通じて学びを得るといった趣旨のことが書かれているのを読んだ。もしかすると女性は他人の話を抽象化して自分なりに咀嚼する能力に長けているのかもしれない。私の妻を観ていても友人や会社の人がこう言っていたからどうだとかよく言っているのでこの傾向は確かにあるのではないかと思う。ベーコンの言う市場のイドラというか、一種のバイアスがかかっている気もするが。
ストックについてはブログにまとめようと思ったが、その前に筆者も勧めているエバーノートにまとめることにした。ブログだと著作権とかを気にしなくてはならないが、オフラインのテキストであれば漏れ無くメモすることができ体裁も好き勝手にできるのでいいと思う。私は記憶力が人よりも明らかに低そうなので、インプットは忘れる前提でストックしておくことは特に大切だと感じた。
筆者は教養はコンテキストが共有されていないために起こりうる機会損失を防ぐために大切であると述べていた。教養のない人間は人間性を疑うとまで書かれていた。若いうちはまだいいがもう少し年老いたら顕著に差が出始めると思う。裏でそんなことを思われているのかと思うと悲しくなるので勉強しないとなあと思った。
この手の本で、所々で出てくる偉人の名言の引用は毎度のことながら説得力があるなと感じた。これも時間や人によってふるいにかけながらも残ってきたものであり価値の高いものである。私もこのように、具体的で説得力のある引用をできるようにしたい。
2019/07/27
達人のサイエンス / ジョージ・レナード
何について書かれた本か
マスタリー(Mastery)、難しかったことが練習を通していくうちに簡単で楽しいものに変わっていくプロセスのこと
この本への期待
表紙を見て読みたくなったので衝動的に。
得た気づき
私自身がこのマスタリーというもの自体が大好きだということに気がついた。マスタリーとは修行における過程のようなもので、困難であったことが紆余曲折を経てそうではなくなるプロセスを指す。仕事や武術などのみでなく、車の運転から掃除などの家事に至るまで、あらゆることに関してマスタリーは存在する。 これらは遺伝子に刻まれたことではなく、練習を通して身に付けるものであるが、このプロセスは人間に特有のものである。道を追求すること自体はどのような些細な作業にも共通している。そのため、マスタリー、道を追求すること自体を追求するのも一興と思い、著者が影響を受けた本であるカプラの「タオ自然学」を読むことにした。
一を聞いて十を知るとか成長が早い人は何らかのマスタリーの経験から、マスタリー自体にある程度の慣れを持っているのだと思う。私の場合は小さな頃から様々なスポーツをやっていたため、新たなスポーツをやる際には他の人と比べて習得が早い方だと思っている。その理由として、どのスポーツにも共通する上達のためのフレームワークみたいなものを自分なりに確立している。例えば、どんなスポーツでもその道に精通している人の形を真似ることは有効である。走るにしろ泳ぐにしろデタラメなフォームではスピードがでないが、オリンピック選手のフォームを真似るとスピードが出る。しかしこれには動きに付随する筋肉を鍛える必要がある。また、体の構造は人によって異なるので自分に合ったフォームを模索するべきである。筋力が大切なスポーツにおいては女子のフォームの方が参考になる。これは一部に過ぎないが、多くのスポーツをやってきた経験からマスタリーそのものに関する知見を得てきたのではないかと思う。これはスポーツ以外にも役立っていて、本書を読み進める中でまさにこれがマスタリーなんだと実感した。
何か新たなことをやろうとする際には、脳の習慣的な部分が改まっていくプロセスがある。それを改めるのが難しく、途中で学習が停滞したりする。本書ではそれをプラトーと読んでいた。面白かったのが、ある程度熟達してきた段階でプラトーに突入した際に才能のあるものとそうでないものとでその後の伸びが変わるということに触れられていた。才能のあるものは熟練度が低いうちに壁にぶつかることがないためそれを乗り切るような精神的なタフさがない。一方で才能のないものは何度も壁にぶつかり乗り越えてきた経験があるため、その壁も乗り切ることができる。小さい頃の私は何をやっても人より上手くできず、全ての物事に対し人の三倍もしくはそれ以上は努力しないと一般のレベルに到達できなかった。そのため、この本を読んで少し勇気をもらった。当時の私には読めなかっただろうが、中学校に入ったくらいの時期に読んでいたかった。
変化を受け入れようとしない抵抗力、ホメオスタシスという概念にも触れられていた。恥ずかしながらこれは知らなかった概念である。
習慣を変えるのは難しい。禁酒やダイエットなど、世の中の人を見ていると習慣を変えるのは難しいようである。これを突破するためにはまずは受け入れ習慣をつけることなどが大切らしい。
本書内ではアメリカとの戦いとして消費主義文化圏におけるマスタリーの困難さが語られていた。私が思うに日本でも、常にものごとが楽しい状態にありプラトーがないことを当たり前と思っている人は少なくないはずだ。本でも触れられていたテレビはもちろん、近年流行りのスマホゲームの影響も大きいと思う。無料で遊べるゲームだけに、作る側としては手放されることを考慮し常にユーザーに飽きられないような工夫を怠らない。そのため常に面白い局面が続く。またインターネットもそうだ。すぐに欲しい情報が手に入るため中途半端な知的好奇心を刺激し続けてくれる。このような消費主義に染まった人間はマスタリーのような、快楽を得るまでに時間を要するような類の努力はあえてする必要がない、面倒だと感じるのも無理はない。知人や家族を含め、マスタリーを楽しんでいる人はあまり多くなさそうだ。
ゲームについて考えてみる。ゲームにも消費型のものとマスタリー的な要素を含むものがある。プレイする側の心構えもそのように分かれているように思える。コンシューマ向けゲームに対しては概して、マスタリー的要素を含むものは長期的に名作と言われ続けるように思える。具体例を出すと、ポケットモンスターやドラゴンクエストモンスターズなどの戦術的なキャラクター育成型ゲーム、ダークソウルやSEKIROなどのクリアするのに非常に高度なテクニックを要するアクションゲーム、クラッシュオブクラウンなどの緻密に戦略を練り上げる必要があるストラテジーゲームなどがある。これらのゲームには頭を使って戦術を練り上げるとか、腕を磨くといった楽しみがある。一方で音や音楽で派手なエフェクトを使い一時的に快楽を得るといった志向で作られたゲームもある。こちらは一時的には爆発的に流行るが廃れるのも早いように思える。このような類のゲームで遊ぶ人はそもそも飽きやすいということもこれに寄与していると考えられる。
マスタリーの道は、常に基礎の修練が大切であり、外的な報酬などを期待しない心構えが大切である。ショーペンハウアーも「幸福について」で述べていたが、名誉のような他者からの印象に期待するのではなく、報酬については内面に閉じていることが大切だと思う。道を求めること、マスタリーそれ自体を楽しめる内面的な豊かさこそが幸福への道にもつながると思う。
最後に、精神的な暗示が力学的な動きに影響を及ぼすといったことについて書かれていた。自然科学的に原因が証明のできないことでも、実用主義者的には使えればそれで問題がないため武道の分野ではよく触れられているらしい。私自身がシステマというロシアの合気道のようなものをやっていた経験がありこれを体感した経験がある。初めて練習に参加した時のことである。私は高校大学と体育会系の部活に属しており鍛えていたため、小柄な先生とはかなりの体格差があった。驚くべきことに、その先生に軽く胸らへんを押されただけで3-4mほど吹き飛んだ。逆に私が本気で押しても無抵抗の先生を1mも動かすことはできなかった。その後に、相手を殴っり押したりする時に相手の体の中心方向へ力を加えるイメージを持てということを教わった。実際に試してみると、そのイメージを持つ以前と比べて練習相手はかなりよろけた。力学的には力が加わる方向が変化し相手の重心を崩したのだが、イメージがそれを可能にしてくれた。この経験以外にもスポーツではイメージの力は大きいということを体感している。また、リラックスすることも力を増大させるという。システマでも常に息を吐きながら動くことにより体の力を抜く。その状態で相手を押したりするが、力任せに押す時よりも相手に大きな力が加わることは経験上間違いない。このような、直感に反したことも色々とあるのだと思う。マスタリーにおいても直感や思い込みなどによってプラトーに陥ることがあると思う。
やること
些細なこともマスタリーの道だと思って楽しんでみようと思う。
感想
たまたま上司が間違えて買った本だったがとても実りのある読書だった。 子供ができたら中学校の入学祝いにでも買ってあげたい。
2019/07/06
ウィトゲンシュタイン入門 / 永井均
何について書かれた本か
哲学を知らない人に向けて、ウィトゲンシュタイン哲学の魅力を紹介する本。
この本への期待
言語と認識について考えるため青色本を読んだが一回では理解できなかった。そのため、この本を読んでからもう一度読み直す事にした。 ウィトゲンシュタインについての事前知識を仕入れる。
得た気づき
筆者である永井氏は、哲学は何かの問題に対する解答を与えてくれるものではなく、誰も議論をしてこなかった問題に対する問題意識の共有であると述べている。孔子に代表される東洋哲学から哲学に興味を持った身としては、西洋と東洋における哲学の捉え方に対する違いを認識する良い機会になった。主に諸子百家の思想の多くが子と呼ばれる先生方が弟子たちとの対話を通じてその思想を教えるという形式をとる。そのため、私の中での哲学とは先人の思想や教えそのものを指すものといった認識があった。今考えるとこれは東洋哲学もしくは春秋戦国時代の中国における哲学特有のものであったのだろう。
ウィトゲンシュタインは独我論者の代表的な人物としてあげられる。ウィトゲンシュタイン以前の独我論では、私の見えるものや私の意識の存在が最大の問題であったらしい。彼以降では、独我論を語る事のできる私とは誰なのかという事に焦点が当てられるようになったらしい。
ウィトゲンシュタインによる言葉と世界の定義を借りて考える。言葉は世界において成立している事実を人間を通して写像したものである。そのため、言葉のみを解して世界を機械に教えることは可能であるが、この方法だと人間の認知による制約を受ける。つまり、言葉を介して機械を教育すると人間の思考の域から超越することは不可能になる。このような機械からすれば世界の限界は言語によって定められることになる。
これもウィトゲンシュタインから借りてくる。言葉が意味を持つ条件として、対象の配列の仕方を正しく写し取ることが必要である。正しくとは、名辞を構成する要素の結合が可能であるように配列することである。私はこの部分は機械が有していない悟性によるものであるが、逆問題的に言葉と対象の配列を言語以外の形で機械に学習させれば悟性を獲得できるのではないかと考えた。
ウィトゲンシュタインとて他者との議論なしに仕事はできなかったので、私が一人で良い仕事をできるわけがない。
やること
デカルトを読む
感想
図を使えば一目で理解できるものをわざわざ文章で表現しているためわかりにくい箇所があった。私もこの傾向にあるので、きちんとした記事を書く際には気をつけたい。
2019/07/06
カリスマ手品師(マジシャン)に学ぶ 超一流の心理術 / スティーブ・コーエン
何について書かれた本か
p.12 から引用
マジックを可能にしている心理学的法則をご紹介し、それを上手に応用して人(一人の場合も、百人の場合もあります)の心をつかむ方法をお教えしたい
人の心を読む方法と操る方法について解説されている。
また、マジシャン視点で、それを支える心理的な技術が惜しみなく書かれている。
この本への期待
営業マンが読むビジネス書として人気があるようである。私は純粋に人の心を読み、操ることが出来れば面白いなと思い購入した。また、マジシャンの思考回路も気になった。
得た気づき
人の心を掴むとは、穏やかに人の心を支配することである。そのためには、容姿、喋り方、振る舞い方が重要である。
人が容姿から受ける印象は大きい。この手の話でよく上がるハロー効果については、私も以前から知っており第一印象がその後の印象に大きな影響を与えるため、初対面の相手には特に気をつけて接するようにしてきた。とりわけ、初対面の場合においては相手に対する情報が容姿と口調くらいしかないのがほとんどであるため、そこから得られることを元に判断するしかない。
そこで本書では、対面する前に先手を打つことを提案していた。容姿、口調、態度で相手に暗示を与えることができ、事前の調査で相手の情報を獲得しておくと円滑なコミュニケーションに役立つ。このような場面において結局自分がどうあるかではなく、相手がどう捉えるかの方が重要である。街中などでもそうである。
普段使う言葉をカスタマイズすることの重要さにも気がついた。言葉は相手に与える印象のみならず、上手く使えば相手の思考を制御することさえできる。
批判を受けること、失敗すること、緊張することへの対処としてそれらを当たり前のものだと諦めを付けて受け入れることが大切である。これらを受け入れる事によってパフォーマンスの低下を防ぎ、さらに事前に対処できることはしておくことができる。批判については全ての人に好かれるのは無理であり身を滅ぼす事に通ずる。少ない回数の拒絶については防衛反応として適切なものであり、ここを乗り切る事なしに物を売ったりすることはできない。
常に強気でいる事の大切さにも気が付かされた。馬鹿丁寧に下から出るのではなく、毅然とした態度で勝負に出ることが大切である。商談で自信なさげな相手から受注することには抵抗がある。自信満々でハッタリをかましてやれば意外と引っかかるものかもしれない。私はこれに何度かやられており経験的にもこれが正しいと思う。
やること
本書に書かれている言葉の使い方と、心理の読み方について、実践を通して考察してみる。
神経言語プログラミングについても調べてみる。
感想
マジックのタネなどほとんど書かれていないのに、それが出来そうな気がしてきた。マジシャンは道具や手先の技術を大切にするものだと思っていたが、それよりもはるかに深い洞察を行い、人の心理そのものをコントロールしていることを知った。営業マンの部下を持つ事になったらこの本は必読書として読んでもらいたい。
2019/06/17
生物から見た世界 / ユクスキュル, クリサート
何について書かれた本か
生物は各々が持つ官能器によって、我々人間とは違う環境を認識し、主観的に作り上げた世界(環世界)に生きている。また、知覚は作用により補われ意味を持つようになる。
この本への期待
JSAI2019でスクウェアエニックスの三宅陽一郎さんが著者のユクスキュルを紹介していて興味を持った。私もAIに世界を認識をさせる仕事をしているため、生物の認識過程から何か知見が得られるのではと思った。
得られた気づき
環世界そのものを機械化し構成できないか。知覚器官はDeepLearningで与えるものとし、作用器官はなんらかのアクチュエータ? PFNの丸山先生がJSAI2019で少し触れていたが、人間の知覚器官、作用器官の高パラメタ空間への拡張として、DeepLearningの適用が始まるのではないか。環世界つまり知覚器官と作用器官を定義してやれば人工生命が作れそう。 知覚標識の捉え方は備えている知覚器官により異なるため、人工知能研究において人間のもののみに固着する理由はないと思う。 人間は自らの知覚器官によるバイアスがかなりかかっているように思う。人間の知覚を機械化しただけのセンサのみでなく、知覚できない現象を定量化できるセンサを用いて、知覚できない高次元空間の特徴をDeepLearningで発見すれば新たな知見が得られそう。 ものに対する意味付けはその生物の作用による制限を強く受けている。そのため、私のものに対する意味付けは私の特定の環境における作用による影響を強く受けており、それがバイアスと呼ばれるものなのだろうと思う。
感想
カント哲学の生物学への拡張といった印象を持った。私はカント哲学を実世界の現象に見出すことができるほど深く理解をしていないが、この本はそれを助けてくれた。自然科学的な観察の実例を交えつつ、生物が主観的世界とどのように相互作用するのかについて書かれていたが、これは非常に斬新であった。 この本は私に、瞬間の長さは動物の種類ごとに異なる、三半規管の三次元的な構造により人間は三次元に束縛されるといった、今まで考えもしなかった視点を与えてくれた。いかに私自身の身体の構造に依存した考えをしてきたのかを思い知らされた。
2019/06/11