本を読んで考える

本を読んで自分の頭で考える。読書日記。

生物から見た世界 / ユクスキュル, クリサート

何について書かれた本か

生物は各々が持つ官能器によって、我々人間とは違う環境を認識し、主観的に作り上げた世界(環世界)に生きている。また、知覚は作用により補われ意味を持つようになる。

この本への期待

JSAI2019でスクウェアエニックスの三宅陽一郎さんが著者のユクスキュルを紹介していて興味を持った。私もAIに世界を認識をさせる仕事をしているため、生物の認識過程から何か知見が得られるのではと思った。

得られた気づき

環世界そのものを機械化し構成できないか。知覚器官はDeepLearningで与えるものとし、作用器官はなんらかのアクチュエータ? PFNの丸山先生がJSAI2019で少し触れていたが、人間の知覚器官、作用器官の高パラメタ空間への拡張として、DeepLearningの適用が始まるのではないか。環世界つまり知覚器官と作用器官を定義してやれば人工生命が作れそう。 知覚標識の捉え方は備えている知覚器官により異なるため、人工知能研究において人間のもののみに固着する理由はないと思う。 人間は自らの知覚器官によるバイアスがかなりかかっているように思う。人間の知覚を機械化しただけのセンサのみでなく、知覚できない現象を定量化できるセンサを用いて、知覚できない高次元空間の特徴をDeepLearningで発見すれば新たな知見が得られそう。 ものに対する意味付けはその生物の作用による制限を強く受けている。そのため、私のものに対する意味付けは私の特定の環境における作用による影響を強く受けており、それがバイアスと呼ばれるものなのだろうと思う。

感想

カント哲学の生物学への拡張といった印象を持った。私はカント哲学を実世界の現象に見出すことができるほど深く理解をしていないが、この本はそれを助けてくれた。自然科学的な観察の実例を交えつつ、生物が主観的世界とどのように相互作用するのかについて書かれていたが、これは非常に斬新であった。 この本は私に、瞬間の長さは動物の種類ごとに異なる、三半規管の三次元的な構造により人間は三次元に束縛されるといった、今まで考えもしなかった視点を与えてくれた。いかに私自身の身体の構造に依存した考えをしてきたのかを思い知らされた。

2019/06/11